大川史織 編著 みずき書林
戦争をテーマにした作品というと、どのような作品を思い浮かべるでしょうか。
広島の原爆に関しては、この「ひろしまを考える旅」の中でもテーマになった原民喜の『夏の花』や、漫画『はだしのゲン』、丸木夫妻の『原爆の図』などが挙げられます。
他にも、東京大空襲を扱った『ガラスのうさぎ』、沖縄戦が舞台になっている『白旗の少女』など、戦争をテーマにした文学・映画・絵画は多くあります。
ただ、ここまでに挙げたいずれの作品も、1940年前後を生きて、戦争当時の光景をじかに目撃し、匂いを感じ、空気感や雰囲気を体感した人によります。なので、これらの作品から感じる生々しさには、フィルターがかかっていません。
今この作品紹介を書いている私は2001年生まれで、祖父母にも戦争当時の記憶はあまり残っていません。
「ひろしまを考える旅」の中でもフィールドワークが行われ、被ばく者の方のお話を伺うように、非体験者にとって、実体験や実感にもとづく語りは、学び、振り返るために大きな意味をもちます。
しかし、当たり前のことだけれど、実際に体験した方の話を伺う機会は、時が経つにつれ減っていきます。
だから今、このような状況で私たちに問われているのは、戦争を体験した人たちが伝えたこと/伝えたかったことを、どのように私たちが学び、さらに伝えるのかということだと思います。
そこで今回紹介したいのが、大川詩織さんの『なぜ戦争をえがくのか 戦争を知らない表現者たちの歴史実践』という本です。
この本は、映画監督の大川詩織さんが、様々な分野で活躍する10組13人の表現者の方達にインタビューする形で、当事者ではない世代がどのように戦争と歴史に思いを巡らせ、表現しているのかを追った作品です。
それぞれの表現者の方が主題としていることは、広島の原爆には限らず、青森、ペリリュー島、サハリンにまで広がります。また、表現のメディアも、文学や絵画、彫刻といったクラシカルなものに加え、VR、AIを使った写真のカラー化など、現代だからこその新たな表現方法にまで及びます。
ただ、共通していることは、この本に出てくる表現者・執筆者全員が戦争を体験していないということです。
筆者の大川さんは、この本の中で敢えて作品を掲載せず、文章のみで綴った理由を次のように述べています。
「当事者のいない時代に戦争を考えることは、わたしたちが戦争を語る<ことば>を考えることでもあるからです。多くの場合、戦争体験はことばで語られ、伝えられていきます。いっぽうで、ことばが万能ではないことも、わたしたちは知っています。ことばだけでは、どうしてもこぼれ落ちてしまうことがあるから、わたしたちはそれ以外の方法でも伝えようとします。(中略)時に、ことばは事実や本意を必ずしも的確に伝えるものではないことを知りながら、それでもわたしたちのコミュニケーションの中心にはことばがあります。だからこそ、ことばだけでどれだけ伝えられるかということに挑みたいと思いました。」
私は以前、沖縄で沖縄戦の語り部の方からお話を伺いました。その語り部の方は、20代で、ご自身のことを「平成生まれの語り部」と説明してらっしゃいました。
言い換えれば、私は、沖縄戦を経験したお祖父さんの言葉を、経験していない方の<ことば>を通して、自分の新たな<ことば>を獲得することに挑戦しました。
そして、今この「ひろしまを考える旅」のボランティアに参加していること、このように記事を書いていることも同義だと思います。私は、広島の原爆を経験した方の話を直接伺ったことも、広島を訪れたこともありません。なので、この旅に関する資料や、広島の原爆に関する書籍、映像から、経験した方が伝えようとしていた<ことば>を探る、思考する、同じメンバーの人と会話をする。その繰り返しの中の一つのステップが、このようにして記事を書き、自分の<ことば>で綴ることです。
歴史や戦争をテーマにしていても、文学や映画、絵画などの美術作品は、ただの鑑賞の対象になる一過性の作品に留まることがあるかもしれません。しかし、このウェブサイトで紹介されるような作品は、一時の鑑賞の対象で終わるべきではありません。特に、戦争の時代を描き、そこに生きる人々の姿を伝える作品には、学術的な記述では覆いきれない感情の機微や生の詳細が含まれています。
自分の<ことば>をもたない人には、戦争や原爆を経験した方が伝えようとしたことを、誰かに伝えることもできません。だから時に、このサイトの作品紹介に寄稿してみたり、自分が美術作品から感じたことを文章にして残してみたり、誰かに伝えてみたりすることが、自分の<ことば>を獲得するための練習にもなり得ると思います。
この本は、広島に限らない場所を扱いながらも、戦争を経験していない人の視点、表現、言葉による歴史実践を軸に置いています。経験者無き時代に経験を伝えることになるであろう私たちが、どのような<ことば>をもち、伝えることができるのか。
この『なぜ戦争をえがくのか 戦争を知らない表現者たちの歴史実践』という本は、これから美術作品に触れる人、今もこれからも学び続ける人、そしてこれからの継承を担う人にとって、自分のもつ<ことば>を考える土台になると思います。
ぜひ、みなさんがこの本を手に取ってくださいますように。
平和核ユースボランティア はる
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